横隔膜呼吸法のキセキ【前編】

目次

疲労回復は、呼吸から始まる

体幹の疲労

体操、運動、スポーツというと、手足が動きまわっているものをイメージするのではないでしょうか。
体操でいえば、典型的なのがラジオ体操。まさに手足を動かし続けますね。
そのため、疲労回復に体操をというと、どうしても手足の運動があるのが当たり前というイメージになってしまいます。

しかし、人間の全身の疲労というものを考えたときに、その何割をどこの部位が占めているかという発想からいえば、疲労の大半は体幹に集中しています。
仮に頭部までを体幹に含めたとすると、全身の疲労の9割は、体幹の疲労といってもいいでしょう。

疲労回復

そうした体幹の疲労を体操で解消しようとしたら、どんなアプローチがあるでしょうか。
体幹は疲労が集中している部位だけあって、実は大変長く、深く、研究されてきた歴史があるのです。
ラジオ体操やその前身であるデンマーク体操、その他のスポーツの多くは、200年くらいの歴史しかありません。

それに対し、武術の体幹運動法は、圧倒的に長い歴史があり、2000年以上も続いています。その中心こそが、実は呼吸法なのです。
また、ヨガや神道の中にも呼吸法が存在しています。
こうした観点からいうと、疲労回復のための体操をしようとした場合、呼吸法を抜きには語れませんねぇ。
むしろ歴史的な長さと深さから考えれば、疲労回復は呼吸法からはじまるといってもいいくらいです。

呼吸法の昔と今

日本にも古くから呼吸法がありました。
特に坐禅の呼吸法は、肚を鍛える丹田呼吸として重視されてきました。
さらに大正時代、岡田式静坐法や調和道丹田呼吸法などの、さまざまな呼吸法が開発されました。
男性の間では「呼吸法をやらないなんてダセーよな」というくらい、一大呼吸法ブームが巻き起こることもありました。

最近では、体幹トレーニングが脚光を浴びています。
以前のスポーツ界では、筋トレといえば、腕や脚を鍛えるのがメインでした。
しかし「腕脚ばかり鍛えてもダメだ」ということが専門家のなかでもわかってきて、そこで体幹が注目され始めたのです。
体幹に注目してトレーニングを考えていくと、改めて呼吸法が着目されるようになりました。

その結果、体幹トレーニングと呼吸法がある種連動する形で、アメリカで流行るようになったのです。それがここ10年、日本に上陸してきたわけです。
そうした中での呼吸法を、まるで新しいものを見るかのように、話題にしてきたのがわが国の現状です。

体幹の主役、横隔膜

まず呼吸法というものは、体幹の中の体操法です。
したがって、腕や脚が自由に動き回れるように、体幹の中を動き回れるものがなければならない。
このような考え方が一番大事です。だとすれば、体幹の中で最も動き回れるものは、何でしょう?

それが今お話ししている「横隔膜」なのです。
名前が「横隔膜」なので、薄い膜というイメージをもたれがちです。
しかし、横隔膜は立派な筋肉なのですよ。その観点からすると、あまり適切なネーミングではないですね。

焼肉でいうと「ハラミ」「サガリ」。
他のカルビやロース、ホルモンなどとはちょっと違った肉質です。赤身肉に近い食感で、柔らかい。
それは腕や脚を動かしている筋肉とは違う働きをするから、こうした特徴になったのです。
この横隔膜こそ、まさに体幹内の主役。大活躍する筋肉なのです。

 

横隔膜のコリに、人は気づかない

腕と脚の異常

腕や脚の筋肉は、若い頃はよく動きます。しかし中高年になってくると、
だんだん動かなくなっていきます。動く機会も減って、衰えていきます。
実は筋肉というのは、衰えてくると固く縮んでいくものなのです。
久しぶりにストレッチをやってみると、筋肉がカチカチで伸びなかった、そんな苦い経験はありませんか?

腕や脚の筋肉はその状態を目で見ることができますし、直接触ることもできるので、分かりやすいですね。
また、その状態は普段の「コリ」として自覚することもできます。 パソコン作業の後「腕がだるい~」とか、歩きすぎて「脚がむくむ~」など。
つまり腕や脚の筋肉は、自覚されっぱなしの状態にあるということです。見ればわかる、触ればわかる、不調でわかる。単純明快です。

それに対し、横隔膜はどうでしょう。皆さんは横隔膜がこっているなあと、感じることはありますか?
ないですよね(笑)。横隔膜も筋肉なので例外ではなく、衰えてくると固くなります。
「そういわれれば、横隔膜はなんの手がかりもない。何にもわからない……」。横隔膜がどれほど忘れ去られていて、鈍感な状態にあるかということです。ほとんど自覚不能です。

それなのに、前述のとおり、体幹の中で最大の能力を発揮する筋肉なのです。圧倒的に仕事量が多い筋肉なのに、どういう状態にあるのかがわからない。
何をしているのかが、全くもってわからない。それが皆さんの横隔膜なのです。

全身疲労の中心は、横隔膜

実際に今、皆さんの横隔膜はどういう状態にあるでしょう?多くの方が「わからない」はずです。
でもそんな横隔膜でも、ときに存在を自覚できることがあります。
それは、疲労が激しくたまった状態のときです。

まず、体幹や胴体に何となく冷えている感じがあり、それが何だか得も言われぬ元気のなさと同居しているような感じ。
また、胴体の中がどこだかわからないけど、なんだか締め付けられているような感じ、縮んでいるような感じ。
胃袋や腸のあたりが、なんだか重くて、ゲンナリしているような感じ……。

さらには、肩が上がって辛く首がこり固まってしまうとか、首がうなだれるような感じ。
また、足が重くて動かすのが面倒だとか、座っているのも辛い……。
このようなときは、前述のような体幹の状態が同居しているはずです。

そうなるとこれはもう、全身疲労というものを、いくつかの観点で見ているのと同じです。
実は全身疲労の一番中心を担っているのは、横隔膜の疲労であり、衰えであり、活動性の低下、筋力の衰えと硬縮だったのです。

では横隔膜は、どのようにしたら活動性を増すことができるのか。それはズバリ、呼吸法に取り組むことです。
イキイキとした横隔膜を取り戻すのに、人類全員にとって最も適していて、圧倒的に能率がいいのは呼吸法であり、それが結論です。ゆえにここでは、疲労回復に役立つ呼吸法を厳選してお届けします。

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