「押す」じゃない「推す」んだ
以前の私は「患者さんを早く治してあげなきゃ!」とで、がむしゃらでした。
「治そう、治そう!」と気合いを入れれば入れるほど、なぜか空回り。
一所懸命に手を動かし施術をしているのに…。不思議なものです。
それどころか、こちらが押せば押すほど、相手の体は固くなり、反発されているかのよう。
お金をもらっている以上、何とかしたい。その思いだけが強くなるばかり。
参考書を読み漁り、セミナーにも参加。でも状況は変わらず、焦る毎日。
「治さなきゃ」という呪縛が消えることはなく、どうにか成果を出したい。
責任感に追い詰められ、ギリギリの精神状態でした。
そんなある日、栄で、偶然アイドルのライブに遭遇しました。オタクさん達が、ペンライトを振り応援する姿。
これだ…!これが、本当に大切なことなんだ!
それはただのエンタメじゃない。心を揺さぶられました。
指圧の「押す」とアイドルを「推す」――同じ“おす”なのに、全然違う。
これまでの私は、「押す」ことに必死で「推す」ことを忘れていた。
「俺が治したぞ!」と、気持ちを満たしたいだけになっていた。そう気づかされました。
患者さんを「修正すべき対象」っていう、まるで故障した機械のように捉えていました。
一人の人間として、真正面から見れていなかったわけです。
力が抜けたら、力が生まれた
ライブ会場での光景は、私に深い気づきを与えました。治療とは、技術じゃない、知識でもない。向きあい方だと。
まずは「治る」「治らない」はどうでもいい。とにかく、目の前の相手を全身全霊で受け止めよう。心の底から応援しよう。あの時のオタクさんのように。
「押す」のではなく「推す」ことで、その人が本来持つ魅力を最大限引き出す。
それこそが真の治療だと気づかされたんです。
その結果、私自身がものすごくリラックスできるようになりました。
関節の力みが抜けていく。背中の緊張がほどけていく。腰からお尻が垂れて下がっていく。
自然体で相手と向き合えるようになったのです。心の持ち方で、こんなに変わるのかと驚きました。
施術へのプレッシャーは完全になくなっていました。
それに伴い、しだいに患者さんの反応も変わりはじめました。身体がほぐれるまでの時間が、圧倒的に短くなりました。
そして、硬くて硬くてどうしようもなかったコリが、“プッチンプリン”のようになったのです。今までの苦労が噓のようです。
以前は再来の場合、元の硬い身体に戻っている場合が多く、毎回振り出しからのスタートでした。でも今は、明らかに良い状態をキープされています。
それでけでなく、驚きの報告が相次ぎました。
疲れ知らずになった、思い悩むことが減った、ゴルフのスコアが上がった、人前で緊張しなくなった、など。
私は気づきました。術者の心の持ち方こそ、人の体を根本から変える力になるのだと。
このようにして「押す指圧」から「推す指圧」に切り替えていったのでした。